● もうひとつの「愚者」、ゴーギャンの『オヴィリ』

(ゴーギャンの彫像:オヴィリ Oviri )

 黄色いキリストのある自画像(ゴーギャン)

 

 1610年、土星はガリレオによって発見される。そして土星の占星学的な(*人間的な)意味は、ガリレオ自身の取った行動と人生に代表されたように、「社会の枠組みとのギリギリの限界の内に生きること」である。

 

 

 その社会の枠組みとのギリギリの接点を見出し、その限界内において社会的恩恵を存分に利用し、人間性を開花させる土星的な人間観は、その後のヨーロッパ社会の200年間を使って十分に試され、実験された。

 

 

 そして1800年代、ポール・ゴーギャンは脱社会、脱既成的なるものに目覚め、国からも職業からもすべて一旦離れ、完全なアウトサイダーの内に新しい精神の進化の可能性を見出そうとする。この離脱、この大衆社会価値構造への否定が、左上の映像にある1890年の作品『黄色いキリストのある自画像』である。

 

 〈黄色〉はヨーロッパ的解釈では社会的価値観の否定を表し、キリストは同じくその時代の代表であるカトリック的価値観を表している。自画像では、ゴーギャンはそれに背を向け、それを否定するもっと原初的な人間の世界を求めているのである(*左上の画像。左側の「黄色いキリスト」がカトリック的なキリスト教的価値観の否定であり、右側の原始的な顔の絵が、さらに原初的な人間的根源を彼が求めていくことを表す;ただし、それは彼の生き方というよりも、絵画を主とする彼の芸術作品を制作する上においてではあるが・・・)。

 

 

 わたしはサマセット・モームの作品『月と六ペンス』によって初めてゴーギャンを知り、激しい衝撃を受けた。それによって、その後の人生の方向性を決定したのは、わたしがまだ中学生の頃であった。そして、25才になってもまだ、玄関の入口にゴーギャンの『黄色いキリストのある自画像』を貼っていたのを思い返しても、その時代のわたしに対する衝撃の深さを思わずにはいられない。

 

 

 

 ゴーギャンの数ある作品の内、わたしが最も注目するのは彫像『オヴィリ Oviri』だが、その作品が表すものは脱社会やアウトサイダーなのではなく、より根源的であり、より宇宙的である。もし『オヴィリ』がなければ、わたしはゴーギャンよりもゴッホにより魅かれて行ったであろうことは確かである。

 

 ゴーギャンは『オヴィリ』を自分の墓碑にしてくれることを望み、実際にそうなっているそうだが、そのオヴィリは異様な目を見開き、足ではオオカミを踏みしだいている。犬を連れているのもあるそうである。

 

 『オヴィリ』はゴーギャンによれば「殺人者」という意味だそうだが、当然に殺しているのは「心の内なる社会意識」であり、「欲望」であり、「快楽に魅かれて止まない人間の意識構造」である。つまりこの『オヴィリ』は、タロットで言う「愚者」の、「もうひとつの愚者」を表しているのである。

 

 左下の画像にあるタロットの0番「愚者」もまた、足元に虎とワニを踏みしだいているが、それは「心の内なる社会への恐れ」と、「自分が何者でもないことから逃避して小さな幸福に満足しようとする心」を殺しているのである。そこから生まれてくるものは、新たな世界を作り出す壮大な「創造力」である。だからタロットナンバーも、0番なのである。

  

 (トートタロット:0番「愚者」ーー中心に、新たな世界を創造する太陽をもつ)

 

 

 そしてゴーギャンは、例の歴史的大作、『われわれはどこから来たのか、われわれは何者なのか、われわれはどこへ行くのか』を完成させるが、その出発点は『オヴィリ Oviri』である。

 

 

 

 そして、『オヴィリ』の行き着いた先は何処だったのだろうか?

 

 それは、ゴーギャンが生きている間には自分でたどり着くことのなかった、『ヴァイルマテイ』(聖婚の神話)なのではなかろうか。

 

 

 「聖婚」とは、欲望という暗い網目に捕らえられているわれわれが、ある日なぜか聖地に導かれ、そこで「絶対者」と出逢い、絶対者に結びつけられるという出来事を起こすことである。そして、そこから、彼の神話的な人生が始まる。

 

 われわれの「秘儀参入のタロット」もまた、ある日「タロットの霊・フル」との出合いを起こし、そこでの「聖婚」によってこの世界を離れ、この世界とは異なる絶対的な世界へと出ていくのである。

 

 

 オヴィリから「月の神ヒナ」へ

  

 『オヴィリ』から、

オヴィリによって自分が再生することを象徴する、

 聖地に立つ「月の神ヒナ」へ。

 

ただし、ゴーギャンが行った作業は芸術作品を作る上での想像であり、

われわれが行っている「秘儀参入のタロット」は、

実際に創造的な生を実現し、それを生きることである。

 

(ゴーギャンの想像による「月の神ヒナ」:

「われわれは何処から来たのか、・・・」より)

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